春菊はまだ
歳を取るごとに嫌いな食べ物がなくなっていく。
まず20代で一人暮らしをはじめてから嫌いなものが格段に減った。
苦手だった納豆や焼き魚、ほうれん草が好きになった。
きっと男の一人暮らしは自然と外食が多くなり、どうしても洋食や肉など脂っこいものばかりなるからその反動なのだろうと思う。
今では大の日本食好きだ。
そして30代後半から40代にかけて。
ずっと嫌いだった香草が食べられるようになった。
パクチーやセロリは今ではむしろ好物。
どうして女たちはこんなもの飲むのだろう、とずっと首をかしげていたジャスミンティーでさえ、最近ではたまに飲むようになった。
こうした味覚の変化はいったいどういう理由で起こるのだろう?
これはさっきお風呂に入りながら(適当に)考えたんだけども、歳を取るとやはりからだの免疫力が落ちる。若い頃と違って風邪は治りにくくなり、病気にもかかりやすくなる。
だから、からだが「お前さーもう歳なんだから好き嫌いとかしてる場合じゃないんだよ。なんでもバランスよく食べて栄養を取らないと、すぐ死んじゃうぜ?」と言っているのではないだろうか。いわば生存本能。
もう一つ(適当に考えた)仮説がある。
人間の脳は20歳をピークに一日10万個も細胞が減っているそうだ。私たちは歳を取るごとに物覚えが悪くなり、忘れっぽくなる。悲しいがこれはまぎれもない事実だ。
もしかして、私たちはその食べ物を「嫌いだったこと」を忘れるのではないだろうか…?
セロリが嫌いだった記憶が歳を取るたびに薄れ、いつしかなんとなく食べられるようになるのではないか。そしてこんなことを言ったりする。
なんでこんなに美味しいのに今まで嫌いだったんだろうなあ
どうなんだろうね。もしかすると味覚の変化についての科学的な研究結果があるのかもしれないが、面倒なので調べない。分かった人は教えてください。
さて、長い一人暮らしと加齢によって今や嫌いな食べ物はほぼない私だが、唯一嫌いな食べ物がある。「春菊」だ。
香草はほとんど食べられるようになったのに、こいつだけは未だに苦手。
大好きなすき焼きに入っていたりすると、「なんでお前いるんだよー」などと思ったものだ。
だが最近では料理に春菊が入っていても、そこまでの憎悪は抱かない。
「お前いたのか。ま、いいけど」ぐらい。
もしかすると、そのうちこいつのことも美味しく食べられる日がくるのかもしれない。